佐久間製菓とサクマ製菓の違いは?廃業の真相と赤緑缶の決定打
2022年秋、ある老舗菓子メーカーの廃業が報じられると、日本列島に大きな激震が走りました。「子どもの頃から親しんだあの缶入りドロップが消えてしまうのか」「もう二度と買えなくなるのか」と、SNSや店頭では買い占めや惜しむ声が相次ぎました。ところが、その後もスーパーやコンビニの菓子コーナーには、見慣れたドロップ缶や「いちごみるく」が当たり前のように並び続けています。
なぜ廃業が報じられたにもかかわらず、店頭には今も商品が存在しているのでしょうか。その背景には、明治の創業から戦後の混乱期を経て枝分かれした「2つのサクマ製菓」の複雑な歴史と、商標を巡る激動のドラマが存在します。本稿では、赤缶と緑缶の決定的な違いから分裂の経緯、そして2026年現在のリアルな流通状況までを現場視点で徹底追究します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:2023年1月に廃業したのは漢字表記の「佐久間製菓(赤缶・サクマ式ドロップス)」であり、カタカナ表記の「サクマ製菓(緑缶)」は2026年現在も精力的に営業を継続している。
- 要点2:戦前の同一起源を持ちながら、戦後復興期に旧経営陣や関係者が別個に立ち上げたため両社に資本関係はなく、熾烈な商標権裁判を経て別々の道を歩んでいた。
- 要点3:映画『火垂るの墓』に登場した「サクマ式」は製造終了となったが、緑缶の「サクマドロップス」や大ヒット作「いちごみるく」は今も日常的に購入可能である。
【真相追究】どちらが廃業した?「ドロップスはもう買えない」という誤解のカラクリ
報道当時から多くの消費者を混乱させた最大の原因は、社名の表記が「漢字」か「カタカナ」かという極めて紛らわしい差にありました。公式発表資料や帝国データバンク、東京商工リサーチの取材データが示す通り、2023年1月20日をもって廃業したのは、漢字表記の「佐久間製菓株式会社」です。
佐久間製菓が製造していた主力製品こそが、赤色の缶でおなじみの「サクマ式ドロップス」でした。同社が廃業を発表した際、ネットニュースの見出しに「サクマのドロップス製造元が廃業へ」といった文言が躍った結果、カタカナ表記の「サクマ製菓株式会社」まで巻き込まれ、「サクマのドロップがこの世から全滅する」という極端な誤解が瞬く間に拡散してしまったのです。
実際には、緑色の缶の「サクマドロップス」を製造するサクマ製菓株式会社は、当時も現在も経営基盤を維持して生産を続けています。当時、サクマ製菓側には「自社が倒産したのか」という問い合わせが殺到し、公式SNSなどで「弊社は廃業いたしません」と異例の告知を出す事態へと発展しました。つまり、「ドロップスというお菓子自体が消滅した」のではなく、「赤缶のサクマ式ドロップスのみが製造に幕を下ろした」というのが紛れもない事実です。

【徹底比較】赤缶と緑缶の違い|味・原材料・缶のデザインを一覧で完全解剖
見た目こそ酷似している赤缶と緑缶ですが、細部を検証すると、デザイン、味の構成、さらには配合されている原材料に至るまで明確な差異が存在します。特に愛好家の間で有名なのが、「チョコ味が入っているか否か」という違いです。
佐久間製菓の赤缶には、ドロップとしては極めて珍しいカカオマス由来のチョコレート味が封入されていました。一方、サクマ製菓の緑缶にはチョコ味の代わりにスモモ(時期や仕様によりメロン果汁など)が採用されており、よりフルーティーな路線を突き詰めています。両社の基本スペックと実情の違いを以下の比較データに整理しました。
| 比較項目 | 佐久間製菓(赤缶:サクマ式) | サクマ製菓(緑缶:サクマドロップス) | 取材現場の分析・評価 |
|---|---|---|---|
| 会社名・表記 | 佐久間製菓株式会社(漢字) | サクマ製菓株式会社(カタカナ) | 創業の源流は同じだが別法人 |
| 缶のメインカラー | 赤色ベース(クラシック調) | 緑色ベース(ポップ調) | 赤=レトロ感、緑=親しみやすさ |
| 代表的な商品名 | サクマ式ドロップス | サクマドロップス | 「式」の有無が法的境界線 |
| 味のラインナップ(8種) | イチゴ、レモン、オレンジ、パイン、リンゴ、ハッカ、ブドウ、チョコ | イチゴ、レモン、オレンジ、パイン、リンゴ、ハッカ、スモモ、メロン | 赤缶唯一の「チョコ味」が象徴的差異 |
| その他代表作 | のど飴、キャンディ各種 | いちごみるく、チャオ、れもん飴 | 緑側は看板商品の多角化に成功 |
| 現在の事業状況 | 2023年1月に廃業(製造終了) | 通常通り操業・販売中 | 2026年現在も緑缶は全国で入手可能 |
『火垂るの墓』の缶はどっち?節子が握りしめた赤い奇跡と文化財的価値
スタジオジブリの名作アニメーション映画『火垂るの墓』(高畑勲監督、1988年公開)において、物語の極めて重要な小道具として登場したのが、戦火を逃れる妹・節子が肌身離さず持っていたドロップ缶でした。空になった缶にわずかな水を注ぎ、缶の壁面に残った糖分を甘い水として飲む切ないシーンは、世代を超えて日本人の記憶に深く刻み込まれています。
映画に登場したあの缶は、まさに佐久間製菓の「赤缶・サクマ式ドロップス」でした。原作小説を執筆した野坂昭如の実体験に基づいて描かれた時代設定は第二次世界大戦末期。当時、日本国内で流通していた高品質な缶入りドロップの代名詞が、サクマ式だったからです。
映画公開以降、佐久間製菓はスタジオジブリの公式ライセンスを受け、劇中の節子の姿をあしらった復刻版「火垂るの墓コラボ缶」を長年にわたり販売していました。映画の文化的影響力と相まって、赤缶は単なる菓子を超え、「昭和の記憶」「平和を祈る象徴」としての情緒的価値を獲得していたと言えます。それだけに、同社の廃業によってこの名コラボ缶が市場から永遠に姿を消したことは、アニメファンや歴史資料保存の観点からも大きな喪失として受け止められました。

戦後の混乱から商標権裁判へ|「2つのサクマ製菓」が辿った数奇な分裂劇
なぜ同じ「サクマ」を名乗り、極めて似通った製品を作る会社が2社存在したのでしょうか。その発端は、1908年(明治41年)に創業者・佐久間惣治郎が「佐久間惣次郎商店」を興した黎明期にまで遡ります。惣治郎は英国製ドロップに負けない国産ドロップの開発に心血を注ぎ、クエン酸を用いて夏場でも溶けにくい製法を確立。1913年にトレードマークとなる缶入りドロップを発売しました。
しかし、太平洋戦争が激化するなか、1944年11月に発令された「企業整備令」により、砂糖の配給停止と金属統制の煽りを受けて会社は一度目の強制解散・廃業に追い込まれます。そして終戦を迎えた後、歴史の歯車が大きく狂い始めました。
戦後の混乱と物資不足が落ち着き始めた1940年代後半、旧会社の再建を目指して立ち上がったグループが二手に分かれてしまったのです。
- 漢字の佐久間製菓:旧会社の専務取締役を務めていた横倉信之助らが中心となり、1948年11月に東京都豊島区池袋にて設立。
- カタカナのサクマ製菓:旧会社の代表者であった山田弘隆の三男・山田隆吉らが中心となり、1947年4月に東京都渋谷区(後に目黒区)にて設立。
創業の血筋を引くグループと、経営の実務を担っていた幹部グループが、それぞれ独自に「サクマの伝統」を引き継いだと主張したことで、泥沼の法廷闘争が勃発しました。焦点となったのは「サクマ」の名称と伝統のレシピを誰が継承できるかという商標権の帰属です。
最終的な司法の判断は、極めて妥協的かつ現実的なものでした。裁判所は、「サクマ式」という名称の商標権を横倉氏側の佐久間製菓(漢字)に認める一方で、山田氏側のサクマ製菓(カタカナ)に対しても「サクマ」の屋号およびドロップ製造の継続を認める判決を下したのです。結果として、漢字側は「サクマ式ドロップス」、カタカナ側は「サクマドロップス」を名乗り、資本関係も役員の交流も一切持たない競合他社として、半世紀以上にわたる並走が始まりました。
【現場検証】佐久間製菓廃業の本当の理由とサクマ製菓の現在
なぜ一方の佐久間製菓だけが力尽き、サクマ製菓は生き残ることができたのでしょうか。帝国データバンクの財務分析や業界動向を精査すると、そこには現代の食品産業が直面する過酷な構造変化が浮かび上がってきます。
東京商工リサーチの公開情報によると、佐久間製菓は2021年9月期時点で約1億5,100万円の最終赤字を計上していました。廃業に至った直接の要因は主に3点挙げられます。
- ライフスタイルの変化と代替品の台頭:少子化に加え、片手で食べられゴミが出にくいグミ、小粒のタブレット菓子(フリスクやミンティア)が市場を席巻し、缶入りハードキャンディの日常需要が年々減退していたこと。
- 原材料・エネルギーコストの高騰:世界的な砂糖や水飴の相場上昇、缶パッケージに用いられるブリキ鋼板の値上がり、さらに工場の稼働エネルギー費用の急騰を価格転嫁しきれなかったこと。
- コロナ禍による観光・土産需要の消失:「サクマ式ドロップス」は近年、スーパーの菓子棚以上に観光地のお土産物店、駄菓子屋、高速道路のSA・PA等でのノスタルジー消費に依存していたため、人流停止の打撃を致命的に受けたこと。
対照的に、カタカナのサクマ製菓は巧みな事業多角化に成功していました。その最大の防波堤となったのが、1970年に発売された「いちごみるくキャンディ」です。噛んだ瞬間にサクサクと崩れる独特のミルフィーユ構造は、ドロップスに依存しない不動のメガブランドへと成長しました。さらに「チャオ」やレモンキャンディ、人気キャラクターやIPコンテンツとのコラボレーション企画を矢継ぎ早に展開したことで、単一商品への依存リスクを回避していたのです。
2026年現在、サクマ製菓は創業の地である東京都目黒区に本社を置き、長野県浅間工場などの生産拠点をフル稼働させながら、安定した黒字経営を継続しています。

一般に知られていない盲点とネットの誤解|今サクマ式を口にする方法はあるのか?
佐久間製菓の廃業から月日が流れた現在も、ネット上では「サクマ式ドロップスはもう二度と食べられないのか」「復刻の予定はないのか」という議論が絶えません。ここで知っておくべき盲点と、購入に際する判断基準を整理します。
現在、フリマアプリやネットオークション上では、未開封のサクマ式ドロップス(特に『火垂るの墓』デザイン缶や記念缶)が定価の数倍から十数倍のプレミア価格で取引されています。しかし、食品ジャーナリズムの観点から強く警鐘を鳴らしたいのは「賞味期限と保存状態の壁」です。キャンディは湿気や熱に弱く、製造から時間が経過したものは缶内部で溶けて塊化し、風味が著しく劣化しているリスクが極めて高くなっています。
【プロの結論】おすすめできる人・慎重になるべき人の判断基準
現在の市場環境において、両者の商品にどう向き合うべきか。消費者ごとの判断基準は以下の通り明確です。
▼緑缶(サクマ製菓)の利用を推奨する人:
- 「子どもの頃に食べた懐かしい缶入りドロップのカラフルな甘さを今すぐ味わいたい」
- 適正な定価(100円〜200円前後)で、安心・安全な新品の飴を購入したい
- 缶を振ったときの「カチャカチャ」という音や、何味が出てくるかわからないワクワク感を楽しみたい
▼フリマ等での赤缶(佐久間製菓)購入に慎重になるべき人:
- 実食目的で購入を検討している人(賞味期限切れによる品質劣化のリスクが極めて高い)
- 転売目的の高額出品に巻き込まれたくない人
- ※ただし、歴史的資料、昭和レトロのインテリア、あるいはジブリ関連のコレクションとして「缶そのものを保存・鑑賞したい」というコレクターに限り、自己責任での入手には一定の意義があります。
【佐久間製菓とサクマ製菓の違い】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:佐久間製菓とサクマ製菓はグループ会社や親子会社ではないのですか?
A1:完全な別会社です。戦前の旧会社解散後、横倉信之助氏が率いるグループ(漢字)と山田隆吉氏が率いるグループ(カタカナ)がそれぞれ別個に立ち上げたため、資本関係、人的関係、工場の相互利用などは一切ありませんでした。
Q2:緑の缶の「サクマドロップス」は今でもどこで買えますか?
A2:全国のスーパーマーケット、コンビニエンスストア、100円ショップ(ダイソーやセリア等)、ドラッグストア、および大手ECサイト(Amazon、楽天市場等)で現在も日常的に購入可能です。
Q3:赤缶の「サクマ式ドロップス」が将来的に再販・復活する可能性はありますか?
A3:佐久間製菓株式会社はすでに会社清算を完了しており、直ちに自社で復活することはありません。ただし、同社が保有していた商標権やレシピ等の知的財産が第三者の菓子メーカーに譲渡・ライセンス供与された場合、将来的に他社主導で復刻版がリリースされる可能性は理論上ゼロではありませんが、2026年現在で公式な再販計画のアナウンスはありません。
まとめ:今後の動向と失敗しないための判断基準
佐久間製菓とサクマ製菓の物語は、単なる「老舗メーカーの廃業劇」にとどまりません。それは、明治の洋菓子黎明期に生まれ、戦争による国策解散を乗り越え、戦後日本の高度経済成長とともに歩んだ2つの企業が辿った栄光と苦難の軌跡そのものです。
赤缶の「サクマ式ドロップス」が歴史の幕を閉じたことは極めて惜しまれる出来事でしたが、その魂と「缶入りドロップ」という稀有な日本のお菓子文化は、今も緑缶を掲げるサクマ製菓の手によって未来へと受け継がれています。「ドロップが消えてしまった」と嘆く必要はありません。今も店頭に並ぶ緑の缶を手に取り、蓋を開けてみることで、私たちが愛したあの甘い記憶はいつでも鮮やかに蘇ります。 (出典: 佐久間製菓とサクマ製菓の違い(Yahoo!ニュース))